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56 ブロッホ | エルガー エルガーの《チェロ協奏曲》はいかがですか?この曲を演奏するにあたり、手本としてい る奏者はいるのでしょうか? 若い頃に、もちろんジャクリーヌ・デュ・プレの録音を聴きました。さらに私は、シカゴで 2 度、 デュ・プレのエルガーを生で聴いています。彼女のカリスマ性に感銘を受けると同時に、私 が頭の中で思い描いている解釈とは違うなとも感じました。言うまでもなく、デュ・プレの解 釈には敬服し、尊敬の念を抱いています。私は単に、別の視点からこの協奏曲を見つめ、 理解しているのです。私の解釈は、どちらかと言えばカザルスのそれに近いのかもしれま せん。実際、彼の録音から大きな影響を受けました。その凝縮された音、強烈な表現、大 げさな演奏効果の不在、内面性が、私の心に訴えかけるのです。カザルスはそこで、死の 影を際立たせています。おまけに彼はこの作品を、しばしの沈黙を経て演奏活動に復帰し た際に録音しました。この時に彼が、指揮のエイドリアン・ボールトと共にエルガーの《チェ ロ協奏曲》を選曲したのは偶然ではありません。レコーディングが行われたのは 1945 年。そ して作品自体は第1次世界大戦と結ばれています。つまりカザルスは、亡命者であった当 時の自身の境遇を、エルガーの協奏曲にはっきりと重ねているのです。カザルスは、復帰 作としてドヴォルザークの協奏曲を選ぶこともできたはずです。しかし彼は、あえて自らの 私的な状況と歴史的な背景を意識し、エルガーの協奏曲を選んだのです。

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