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54 ブロッホ | エルガー シュタルケルのもとで《シェロモ》を学んだことはあるのでしょうか?彼も、ズービン・メータ の指揮でこの曲の名録音を発表しています。 はい、少しだけご指導いただきました。ただし私は、それ以前から《シェロモ》を弾いていまし た。むしろ私はシュタルケル先生のもとで、エルガーの協奏曲を深く勉強しました。極めて興味 深いレッスンでした。なぜなら先生は、ロンドンでジョン・バルビローリと出会っているのです。 当時のシュタルケル先生は、まだかなりお若かったはずです。いっぽうバルビローリは、指揮 者として名をはせる以前にチェリストとして活動していました。シュタルケル先生は、エルガー の一種独特な協奏曲を完全には理解できないまま、バルビローリの前で演奏しました。バルビ ローリは、この曲のどちらかといえば内に秘められた音楽言語を成す、心理的なニュアンスや 表現の重点について、詳述してくれたそうです。シュタルケル先生はその貴重な体験を、私に 分け与えてくださいました。こうして私は、この協奏曲に対する新たなヴィジョンを手にしたので す。いっぽう、先生がブロッホと面識があったかどうかは分かりません。私自身は、ブロッホの娘 さんに何度かお目にかかったことがあります。彼女は、私が《ユダヤ人の生活から》を演奏した 公演にいらしたのです。私にとって、彼女との出会いは大変有意義でした。何だか、ブロッホと 繋がったような気がしたからです。このように人間的に作曲家に近づくことは、とても重要であ り、演奏家が作品像を構築していく上で、鍵の1つとなりうると思います。 《シェロモ》では、チェロがレチタティーヴォのような“独白”を繰り広げます。かなり稀な書 法と言えます。 より控えめではありますが、似たような書法は《ユダヤ人の生活から》にも見出されます。私はこ の作品を、かなり若い頃から弾いています。ユダヤ人である私にとって《ユダヤ人の生活から》 は、言うなれば自分を取り巻く空気に溶け込む作品です。そして時と共に私は、この作品との 距離をいっそう縮めてきました。 ですから《シェロモ》を初めて弾いた時には、違和感はありませ んでした。もちろん、《シェロモ》は技術的により難易度の高い楽曲ではあります。この作品を演 奏する際には、オーケストラ・パートの重要性や、ソロとオーケストラの音色の融合を意識した上 で、どうすればそれらが適切に表現されるのかを熟慮しなければなりません。さらに、これほど 豊かなオーケストラの響きをバックに、どのようにチェロを鳴らすべきか、考える必要があります。
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