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ゲイリー・ホフマン | ベルギー王立リエージュ・フィルハーモニー管弦楽団 | クリスティアン・アルミンク 49 ブロッホがチェロを独奏楽器とする《シェロモ》を完成できたのは、バルヤンスキーのチェ ロの音色が、人間の声の音色、さらにはソロモン王の声色を彼に想像させたからである。 ブロッホはこう回顧している。“長年のあいだ、私は旧約聖書の『伝道の書』の音楽化を望 み、多くのスケッチを書き溜めていた。しかし私が書いたリズム・パターンは、フランス語に は——そしてドイツ語にも英語にも——適さなかった。おまけに私のヘブライ語の能力は、創 作に活かせるほど高くはない。こうしてスケッチだけが増え、脇へ置かれていたのである。” その後ようやく、バルヤンスキーの内省的なチェロの音色が、眠っていたスケッチを目覚め させ、秩序を与えた。実際《シェロモ》では、ソリストがレチタティーヴォ風の“独白”を展開し ていくが、これはモダン・チェロのレパートリーにおいて先例のない試みだろう。ブロッホの 東洋風のオーケストラ書法は、私たちを遠い昔のエルサレムへといざなう。さらにそこには、 シナゴーグの歌唱(とりわけユダヤの祈祷“ Asher kid’shonu b’mitsvosov ”)の要素が織り 交ぜられている。さまざまな音素材の要として、全体の流れを荒々しく支配し、同時に作品 の構造を堅固に支えているのが、相次ぐクレシェンドである。クレシェンドはソリストによって 提示された後、オーケストラへと波及する。独奏チェロが紡いだ音素材は、その時、オーケ ストラによって劇的にパラフレーズされることになる。静けさが帰って来ると、王を体現する チェロは再び瞑想し、やがて、希望とは無縁の暗いエンディングの中で諦念に至る。
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