LDV38.1

47 セドリック・ペシャ スヴャトスラフ・リヒテルやエトヴィン・フィッシャーらが残した、ピアノによる《平 均律》の歴史的録音から影響を受けたのでしょうか? もちろんです。リヒテルとフィッシャーはもとより、ヴァルター・ギーゼキングやサムイ ル・フェインベルクの録音が、私の音楽的教養を豊かにしました。彼らの録音は私 に、放胆さ、つまり演奏における“言論の自由”の息吹きを感じさせてくれます。もち ろん彼らは、ウィーン古典派やロマン派の作品を演奏すべく研鑽を積んだピアニス トたちです。おまけにピアノ演奏の領域において、バッハの作品はしばしば、音楽的 というよりもむしろ教育的な観点から重んじられています。それでも彼らは、何をも恐 れずにバッハの音楽を奏でています。 今日を生きる私たちは、沢山の“参照すべき”録音に取り巻かれています。それら が、私たち自身の演奏の表現の可能性を狭めていることも事実です。カナダのピ アニスト、グレン・グールドは、“伝統破壊者”として有益な役割を演じました。実際、 驚くべきファンタジーに支えられた彼の奏法、彼の美学、彼の挑発的なアプローチ は、その後の幾世代ものピアニストたちに影響を与えています。私自身は、自分が“ 奇抜な”ピアニストに分類されるとは考えていませんし、“個性的になるために身に つける個性”の類には興味がありません。むしろ私が心惹かれるのは、誠実さや美 の探求です。美はとりわけ、音楽作品の声楽的な次元の中に見出されます。だから こそ私は、常に歌に立ち返ります――バッハの音楽は、絶えず“歌われ”なければ なりません!

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