LDV38.1
45 セドリック・ペシャ 古楽器を用いた演奏についてはどのようにお考えですか? 何年ものあいだ私は、バッハの才能は無から生じたと誤解していました。ですから、 音楽学的な知識は極めて重要です。とりわけ楽器学は、“歴史的な情報”に通じて いなければならない演奏家に、数々の地平を拓いてくれます。実際、時代考証にも とづいてバッハの作品を演奏したグスタフ・レオンハルトやスコット・ロスのアプローチ を無視することはできません。芸術家を生むのは、その時代なのですから……。 しかしながら私は、 3 つの異なる楽器を用いて《平均律》全曲を録音しようとはしませ んでした。その第一の理由は、私はあくまでピアニストであり、他の楽器については 完全な門外漢であるからです。第二の理由は、ピアニストである私にとって、古楽器 の使用は安易な解決策でしかないからです。私自身は、ピアノは――チェンバロ以 上に――、合唱の声やヴァイオリン・オーボエ等の音色をほのめかすことができる楽 器だと確信しています。いずれにせよ、バッハの作品の演奏に関して、楽器の選択 をめぐる議論には果てがありません。 貴方にとって《平均律》を学び録音するという挑戦は何を意味するのでしょうか? 今回は暗譜で録音をしました。そのお陰で、視界が目の前の“紙”に独占されること なく、自由に演奏することができました。コンサートでは、楽譜を見ながら演奏してい ます……。第1巻に比べて第 2 巻の内容は複雑です。そのため、第 1 巻の録音には 3 日、第 2 巻の録音には 4 日を費やしています。第 2 巻は 2 回のセッションに分けて録音 しましたが、複数のテイクを録った幾つかの前奏曲とフーガを聴きなおしたところ、 それぞれ演奏が随分と異なっていたため、どのテイクを選ぶべきか、長いあいだ迷 いました。
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