LDV38.1
42 バッハ / 《平均律クラヴィーア曲集》全曲 ドイツを一度も離れたことがないバッハが、当時のヨーロッパのさまざまな美学 を統合させている点も魅力的ですね。 イタリアへの憧れや、フランス音楽からの間接的な影響は、バッハの尽きぬ好奇心 を物語っています。ところで、彼が数学を学んでいたこと、そして驚くべき楽器コレク ションを有していたことも分かっています。このような、彼の百科全書的ともいえる側 面は、ルネサンス時代の哲学者たちに負けるとも劣らないものです。 先ほど貴方も言及していましたが……私たちは、バッハの作品を神聖視すること によって、その“実用的”な面を見過ごしがちです。 確かにバッハは、弟子たち、特に息子たちのために曲を書いていました。まさにそ れが、《平均律》第 1 巻の誕生のきっかけでもあります。そのような驚くべき奉仕の精 神も、彼の性格を映し出しているように思います。これほど教育的な価値の高い楽 曲を、これほど多量に残した作曲家が他にいるでしょうか ? 私自身も教育に携わって いますが、バッハの姿勢は、私たちに人間味あふれる教訓を授けてくれます。彼は 私たちに、次世代への継承が、舞台上で演奏するのと同等に重要で高貴な行為で あることを、伝えてくれているからです。 《平均律》では、音楽教育の観点から見て、完全なバランスが保たれています。前奏 曲は指の動きを敏捷にし、即興性への扉を開いてくれます。一方でフーガは、音楽 的な思考を鍛えてくれます。素晴らしいことに、バッハは教育的な意図をもって《平 均律》を作曲したにもかかわらず、そこで自らの音楽的思想を単純化することは決し てありませんでした。
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