LDV38.1

40 バッハ / 《平均律クラヴィーア曲集》全曲 貴方はシューマンに、ある種の親近感を抱いているとのことですが、バッハに対し てもそうなのでしょうか? いいえ、全く。バッハへの尊敬の念は、崇拝の念に近いものです。私たちは彼の人 生について、何を知っているのでしょうか ? シューマンと比べれば、バッハの人生に ついては僅かなことしか分かりません。おまけにバッハは、その作品の大半が伝記 的なエピソードによって解明されうるシューマンとは大きく異なります。しかも、バッハ の日常生活に関する新資料の数々を奇跡的に手に入れることができたとしても、私 たちは依然として途方に暮れるはずです。なぜなら、バッハの陽気な作品が――例 えば《ブランデンブルク協奏曲》が――、彼の人生の幸せな瞬間と結びついている ことを確証するものは皆無だからです。実際は全く逆であった可能性もあるの です! バッハの作品は音楽史において唯一無二の存在です。その理由は、おそらく彼の 作品が、完璧な形式と深い人間的表現を兼ね備えているからでしょう。つまり、《平 均律》の音符をひとつだけ変えることすら考えられません。そして《平均律》は、バッ ハの性格の一端を明かしてくれる曲集でもあります。 どういうことでしょうか? 一例を挙げるなら、彼のユーモアの表現は、後の時代のモーツァルトやハイドンや ベートーヴェンの表現と通底しています。バッハの作品において……例えば《平均 律》第1巻の〈フーガ 変ロ長調〉の対主題の執拗な同音連打は、笑いを誘おうとして いるように聴こえませんか ?

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