40 モダン・タイムズ そして彼らに、デビュー·アルバムを構想する時がおとずれた。「ラヴェルのピアノ三重奏曲 が軸となることは分かり切っていましたが、カップリング曲については熟慮しました。私たち にとって重要であったのは、先人たちが踏み固めた道からはみ出し、フォーレあるいはドビ ュッシーの作品を組み合わせる伝統的なプログラミングから離れて、私たちの興味や好奇 心を示すことでした」と、岡田は言う。そもそもラヴェルのピアノ三重奏曲は、この作曲家が 受けた種々の影響をはらんだ音楽であり、まさに様々な美学が交差する十字路にたとえら れる。ラヴェルがロシア·ロマン派の作曲家たちに寄せた敬愛の念を本盤で体現しているの が、アントン·アレンスキーのピアノ三重奏曲第1番だ。アレンスキーの作曲様式は、ちょうど リムスキー=コルサコフとラフマニノフの作曲様式の狭間(はざま)に位置する。ラヴェルの 音楽言語がもつ種々のモダンな特性は、とりわけ終楽章で顕著にみとめられるが、それら は本盤において、現代作曲家ミロスラフ·スルンカの《Emojis, Likes and Ringtones〔ピ アノ三重奏のための絵文字、いいね、着メロ〕》(2018年ARDミュンヘン国際音楽コンクー ル委嘱作品)と呼応している。トリオ·パントゥムは、2023年に同コンクールに出場したさい に、この現代曲と出会った。パクによれば、これら2作品の選曲は、かなり直感的であったと いう。「アレンスキーの作品は、その熱情によって私たちをただちに魅了しました。この曲は、 若手のピアノ·トリオである私たちの内面に見事に合致します。スルンカの作品は、ミュンヘ ン国際コンクールへの出場時に私たちの人生に新しく加わりました。この曲をきっかけに、 私たちは、今日の最も優れた作曲家の一人であるスルンカとの実り多いコラボレーション を開始させることができました」
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