34 ORIGIN 三人三様の「日本」を描き出した黛、武満、松村が、ほぼ同じ時期に生まれているのは偶然 ではない。この世代は多感な10代半ばに悲惨な戦争を体験し(幸いなことに従軍する年 齢ではなかった)、日本の価値観が180度変化した瞬間を青年期に目撃した世代だった。 彼らはまさに日本に生まれ、育ちながらも、しかし敗戦によって「日本」をあらためて定義す ることを強いられた世代なのである。その意味では、どこか上野と似た境遇といってもよい だろう。 一方、森円花(1994-)は若い作曲家である。桐朋学園大学に学んだ彼女は、既に上野の ために多くの曲を書いているのだが、コロナ禍の2022年に書かれた《Phoenix》の中に聴く ことができるのは、既に戦争から80年近くを経た「現代の日本」だ。 全体は循環主題で繋がれた5つの楽章からなるが、prologueとintermezzoをはさんだ3 幕オペラのようなスタイルがここでは意識されている。無調語法からポピュラー音楽的なリ ズムまで含む多彩な様式は、上野という奏者の運動神経を最大限に引き出すものといえよ う。曲の最後では、奏者はチューニングを一瞬のうちに緩めて最低音を作るのだが、そのア クションに象徴される「熱さ」が何よりもこの曲の美点だろう。
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