32 ORIGIN 武満徹(1930-96)は、戦後の日本の作曲家としてはもっとも名の知られた人物である。ド ビュッシーやメシアンといったフランス音楽の強い影響下で作曲を続けながら、彼もまた 西洋の響きと日本人のアイデンティティをどのように融合させるかについて自問自答し続け た。1967年の《ノヴェンバー・ステップス》は、琵琶と尺八という、日本の伝統音楽の中では 異なった系譜に属する楽器を用いた二重協奏曲だが、この作品によって彼の名は世界的 なものとなる。黛の場合と同じく武満もまた、「日本」との格闘によってユニヴァーサルな地 位をつかみ取ったのだった。 武満の作品にはチェロ独奏曲はない。しかし上野は、この音楽に漂う「空気感、オーガニッ クに時が流れたり止まったりする雰囲気」を表現したいあまり、遺族の許可を取って、武満 の遺作であるフルートのための《エア》(1995)の「チェロ版」を自ら作りあげた。結果とし て、この作品は、フルートによる原曲とは全く異なる魅力を放つ、確固たる芯を備えた音楽 として蘇ることになった。
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