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29 上野 通明 上野は南米のパラグアイで生れ、幼い時期はスペインで過ごしている。 4歳のときにヴィデオで観たヨーヨー・マに夢中になり、5歳のクリスマ スにチェロを買ってもらったのが、彼の音楽人生の始まりだったという。 こうした上野にとって、日本は故郷でありながらもはるか遠い国だった。 彼はいう。 「日本の文化について深く考えたことがなく、ヨーロッパの人から好意 を持って日本の話をされても自分はほとんど知らない。それが恥ずかし かった」。やがて彼は、成長すると共に徐々に「意識的に」日本について 考えざるを得なくなったのだった。 日本という環境を当然なものとして受け止めるのではなく、それを一種 の外部として知覚したうえで、あらためて慎重に吟味し、選び取ること。 日本人による作品を自分の指で弾きながら、上野はそうした作業を行 なっているにちがいない。

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