36 プラン·ジュ ブゾーニの編曲は、貴方にどのような新しい地平をひらくのでしょうか? ブゾーニの譜に目を通し、実際に弾きはじめたとき、ある種の音楽的な啓示を受けました。 もともと私の記憶にはバッハの原曲が刻まれていたわけですが、私に内在していた原曲が、 突如、ブゾーニによってピアノの鍵盤上で発展させられ、途轍もない広がりを得たのです。そ こで私はバッハ=ブゾーニのレパートリーの開拓にいそしみました。それは正しい選択でし た。曲をさらい、録音し、録音を聞く過程で、私はブゾーニの編曲の完成度の高さに計り知 れない喜びをおぼえ、努力が報われたと感じました。そして私は、それまで取り立てて意識し ていなかった本盤の意義と自分自身が調和していることに気づきました。なぜかはわかりま せんが、ブゾーニが編曲したバッハの音楽は、本盤の存在理由をこれ以上なく揺るぎないも のにしているように思います。ブゾーニはピアノ特有の素材を用いて、傑出した成果をあげて います。その音楽的な達成が、私に深い満足感をもたらします。 私はオルガンを弾きません。そのため私にとってブゾーニの編曲は、バッハの 崇高な音楽に手を伸ばすための唯一の道です。私は、教会のミサで耳にして いた響き——自分がよく知る響き——を、ただひたすら心のなかで鳴らそう と努めました。
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