35 ジャン=フィリップ・コラール 今回、ピアノで頻繁に演奏される曲ではなく、オルガン作品のピアノ用編曲を選んだのはな ぜですか? それは私の青少年期の思い出と堅く結びついています。教会でオルガンを弾き、指揮もして いた父が、毎週日曜の朝に私をベッドから引っ張り出し、私にトリオ・ソナタのバス・パートを 担当させていたのです。二人で一緒に演奏しました。音色の配合に熱中する父を前にして、 私は大いに興味をかき立てられました。私はピアノを弾きながら、父が歌わせる2つの独奏 声部に耳を傾けました。父の即興にも感服しました。わずか数音の即興でも、そこには確か に、神聖なものとの真の交感がありました。家族の歴史に立ち返ることは、私にとって重要 な意味をもちます。オルガン作品のピアノ用編曲を選んだのは、私の父、そして私の文化への オマージュです。 これまでピアニストとして、どのようにバッハの音楽と向き合ってきたのですか? 以前はピアノでバッハを弾くことに、さほど惹かれていませんでした。むしろ私にとって、バッ ハと言えばオルガンであり、彼の音楽を最も適切に表現できるのは教会の音響だと考えて いました。美学や様式の問題にも強い関心は抱いていませんでした。学生時代に音楽院で 前奏曲とフーガを幾つか弾きましたが、それはあくまで学習の一環でした。たとえば『平均 律』第1巻の幾つかのフーガは、私の耳と指の訓練に効果てきめんでした。当時の私が師事 していたヴァン・バレンツェン先生は、生徒たちに仕切りにバッハの勉強を勧め、各声部をよ く聞けばバランスの取れた演奏になると仰っていました。懐かしい思い出です。
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