LDV139

31 ジャン=フィリップ・コラール 1916年に6巻の編曲集が出版されたあと、1920年にライプツィヒで編まれたのが、全9巻 の『バッハ=ブゾーニ全集』である。収録曲はカテゴリー別に区分けされており、第1巻・第2 巻に「Bearbeitungen(アレンジメント)」、第3巻に「Übertragungen(トランスクリプショ ン)」、第4巻に「Kompositionen und Nachdichtungen(作曲と改作)」が収められてい る。第5巻・第6巻の『平均律クラヴィーア曲集』には、注釈のほか、モダン・ピアノでの演奏を 想定した技術的な考察が加えられており、第7巻は第1~4巻への「Nachträge(補遺)」で ある。本盤でのジャン=フィリップ・コラールの演奏曲は全て、第3巻に収録されている。 本盤に収められたトランスクリプションは、ブゾーニが1888年から1900年にかけて手が けたもので、いずれもバッハの有名なオルガン作品を原曲とする。その幾つかはコラール(ル ター派教会の讃美歌)を扱っており、明らかに礼拝用であるが、いっぽうで前奏曲、トッカー タ、フーガは、むしろ[より世俗的な]コンサートでの演奏を想像させる。とはいえ、一貫して 宗教的な領域に身を捧げた音楽家バッハが、聖俗のあいだに鮮明な線を引いた例はおそら く皆無だろう。 じっさい、大曲《前奏曲とフーガ 変ホ長調 BWV552》にも宗教的な側面がある。この前奏 曲とフーガは、『クラヴィーア練習曲集第3巻』(1739)の開始曲と終曲であり、第3巻には、 この2曲に加えて、21のコラール前奏曲(あるいはパラフレーズ)と4つのデュエットが収めら れている。すなわち全27曲だ。この礼拝用の曲集において、27(3×3×3)という数字は、変ホ 長調の調号である3つのフラット、前奏曲の3つのモチーフ、フーガの3つの主題と相まって、 絶えずキリスト教の三位一体を象徴している。

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