36 ラフマニノフ | 前奏曲 これら24曲の前奏曲は、ラフマニノフのどのような肖像を私たちに描いているのでしょう か? 彼の“肖像”は、彼の歌曲、純声楽曲や典礼曲を聞かずして完成には至りません。それらは彼 の前奏曲の背後からも暗に聞こえてきますが、彼の人となりの特異な側面を明確に示す特 性が、つねに十分に掘り下げられているわけではないのです。とはいえ彼の前奏曲は、慎み 深く控えめでありながら人前では気さくだったエレガントな人物——ラフマニノフ——につ いて、多くのことを教えてくれます。その音楽は、物静かであり情熱的でもある彼の二面性を 映し出しています。それは、旺盛で外向的になることもあるロシア人の魂の全側面を含みも つ音楽です。ラフマニノフは、田舎にいると時おり隠遁者のような気分になることがあったよ うですが(「あらゆるロシア人は“隠遁者”的な何かをそなえていると思う」と彼は書いていま す)、つねに家族や友人に囲まれていましたし、近しい人びとの輪から取り残されることは決 してありませんでした。心の機微に敏感なアルトゥール・ルービンシュタインは、彼のことを「 青銅の手と黄金の心の持ち主」と呼んでいますが、ラフマニノフの一連の前奏曲を弾くと、そ れがありありと目に浮かびます。
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