LDV128

33 ジャン=バティスト·フォンリュプト 作品23と作品32のあいだには7年の隔たりがあります。この間、彼の書法はどのように変 化したのでしょうか? 作品23の多くの前奏曲は、まだロマン主義的な精神をとどめています。第8番にはショパン 的な表現がみとめられます。その高らかに舞い上がるフレーズは、ショパンの即興曲第1番 を彷彿させます。第9番は全て重音で、ショパンの3度音程の練習曲に似ています。第4番の 甘美な哀調にもロマン派の影響がうかがえます。娘のイリーナが生まれた日に作曲された 第6番では、壮大なアルペッジョに支えられた息の長い旋律、優雅で甘美な曲調、シューマ ン風の優しい叙情性が、ロマン派音楽の名残です。第10曲は、つねに浮遊しているような印 象を与え、どこまでも瞑想的です。この曲からは、大いなる静けさ、優しさ、極めて純化された 何かが生じています。バスの動きに根を下ろしていない音楽なのです。第1拍目の8分休符 が、無重力状態で漂っているような印象を与えます。ひるがえって作品32の書法は、よりい っそう独自です。そこでは、ラフマニノフがもつ二つの対照的な特性、すなわち電光石火のよ うな眩さと内省、外向性と内向性が同居しています。結婚から程なくして作曲された作品23 は、生気、幸福感、愛、歓喜に満ちた印象を与えつつ、最初の数曲と最後の数曲で瞑想的な 深みも感じさせます。いっぽう、作品32は全体として、より暗く、より管弦楽的です。和声的 な響きは進化し、より濃密で複雑になっています。第13曲は、この進化そのものを端的に体 現しています。この前奏曲は、全鍵盤を駆使しながら最低音域の変ニ音(レ♭)まで沈んでい きます。第4曲は、ことのほか暗い音楽です。三連符のパッセージは、いきり立ったような、恐 ろしい何かを宿しています。鐘の音が鳴り響く第3曲は、一見、輝かしい印象を与えますが、 最後には鐘の音が夢の記憶のように彼方に消えていきます。

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