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30 ラフマニノフ | 前奏曲 「祖国の大地」こそ、彼の前奏曲のインスピレーションの源なのでしょうか? ラフマニノフは「私の音楽が大地への愛を想起させるのは、それが私の心のなかにあるか ら」だと書いています。大地が彼のなかで需要な位置を占めていたことは確かです。しかし、 彼の霊感の源は他にも指摘できます。ラフマニノフは、しばしばモスクワを離れ、田園で長い 休暇を過ごしていました。彼は、都会の生活から抜け出し、自然と触れ合いながら心静かに 作曲する場所を必要としたのです。自然が彼にインスピレーションを与えたことは疑いの余 地がありません。彼は、家族の別荘があったイワノフカ村での日々をしばしば回想しました。 「イワノフカの草原は果てなき海のようだった。そこでは水の代わりに、小麦とエン麦の畑 が見渡すかぎりに広がっていた」——私も、この光景を実際に目にしました。人気(ひとけ) のない畑の真ん中にいると、深い孤独感を抱きます。ラフマニノフは、まさにこの孤独感を育 んでいったのです。彼の一連の前奏曲も孤独を喚起しています。それらは、いわば一連の絵 です。のちに作曲された《絵画的練習曲「音の絵」》と同じように、「絵画的前奏曲/音の絵」 と題されていても不思議ではありません。各前奏曲は独自の色彩や状態を有し、それぞれに 異なる印象を与えます。たとえば作品23の第7曲と第8曲からは、麦の穂を揺らす風の音が 聞こえてきますが、この2曲は、二つの全く異なる雰囲気、環境に取り巻かれています。作品 32のなかでは、波のように揺れ動くバスを特徴とする第5曲の曲調が極めて特異です。ラフ マニノフは印象派の芸術家であったのかもしれない……私は、そう考えながら彼の前奏曲 を奏でています。

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