44 ひばり ルーマニアを代表する作曲家ジョルジェ・エネスクは、ごく早い時期に伝統的な《ひばり》の 舞踊に魅せられた。ヴァイオリン奏者でもあった彼は、自ら《ひばり》を編曲して弾くように なり、その演奏録音も残している。でも何より興味深いのは、彼が19歳の時に《ひばり》を 織り交ぜて書き上げた管弦楽曲《ルーマニア狂詩曲第1番》だと思う。この狂詩曲は、やが て彼の最も有名な作品の一つとなるわけだけど、半世紀後に彼が自ら手がけたピアノ独奏 版はかなりの難曲で、リストの《ハンガリー狂詩曲》と同等の、あるいはそれを上回る華麗な 難技をピアニストに要求する。《ルーマニア狂詩曲第1番》では、《ひばり》だけでなく、1900 年代初頭に人気を博していた沢山の曲が引用されてもいる。たとえば「この1レウで飲みに 行こうAm un leu și vreau să-l beu」や「ドブリカのホーラHora lui Dobrică」は、どの街 角でも奏でられていた人気曲だった。《ルーマニア狂詩曲》は、ワルツ、輪舞、緩やかなホーラ [horas:ルーマニアの民俗舞踊]と共にゆっくりと開始し、徐々にテンポを上げながら、ブ ルゥル[Brâu:l 同]やカルシャリー[Călușarii:同]などを聞かせる。これらの舞踊が、テンポ の加速の原則に従って繋ぎ合わされていて、少なくとも30種の旋律がパッチワークのよう に曲を形作っているの。それは、幾つもの“かけら”から成るルーマニア音楽の肖像であると 同時に、言わば“舞踊の礼賛”でもある。しかも私が思うに、この狂詩曲では、田園のヒバリか ら都会のヒバリへの、口承音楽から(記譜される)芸術音楽への、見事なバトンタッチが繰り 広げられている。エネスクの最初の師が、祭りで《ひばり》を奏でていたに違いないラウタール [lăutar:村のヴァイオリン弾き]であったことは、偶然ではないと思う。
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