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42 プーランク | ストラヴィンスキー | プロコフィエフ プロコフィエフは1938年から1946年にかけてソナタ第1番を作曲しました。彼はこの曲 の冒頭を“墓場を抜ける風”と描写しています。それは、第二次世界大戦が破壊した国土を 彷彿させると同時に、現在のウクライナの荒廃をも連想させます…… イタマール・ゴラン: 今回の3作品の中で、このソナタは、おそらくもっとも私の心に近接して います。極めて力強い音楽であり、いま私たちが生きている時代をもっともよく映し出してい る作品であることは確かです。その険しさ、赤裸々さ……。魂――作曲者の心の奥底――か ら湧いてくる率直な表現……。とりわけ第1楽章の出だしは特筆に値します。最近このソナタ をダヴィドとともに演奏会で取り上げたときには、弾き始める直前に、プーチン大統領の姿 が目に浮かびました。掩蔽豪(えんぺいごう)の中に座る彼が、ロシアの兵士たちに冷酷な命 令を下している姿です……。 ダヴィド・グリマル: そのような暴力性、憂鬱、絶望は、ロシア文化の一部をなしてもいます。 彼らのアイデンティティは血で濡れてしまっています――他者に振るう暴力ゆえに、あるい は、彼らが彼ら自身に振るう暴力ゆえに。ロシアが誇るヴァイオリン音楽の伝統にも、この苦 悩の観念が見て取れます。そこには苦しみと無縁な表現はありません。西欧人たちには、こ の憂鬱が理解できません。彼らの疲弊に対する耐性は、私たちの想像を超えています。私た ちは冬の寒さを恐れていますが、彼らは5千万人の死を覚悟できており、それが彼らの文化 の一部を成しています。ですから、私たちは理解し合うことができませんし、私自身、理解す るつもりもありません……。私はソヴィエトの体制の犠牲となった音楽家たち――その多く はユダヤ人です――としばしば交流していました。彼らは苦悩を抱えていましたが、同時に、 その苦悩こそが彼らを定義していました。プロコフィエフの、大地を揺るがす粗暴なソナタ 第1番は、この苦悩の文化を含みもっています。
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