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43 フィリップ·カサール ナタリー・デセイはボルドーで青春時代を過ごしたが、生まれはリヨンである――彼女が サン・テミリオンのワインよりもサン・ジョゼフのワインを好んで口にする理由も、出自と 関係しているのだろうか? ただしデセイが赤ん坊の頃に口にした哺乳瓶に何が入って いたのか、今となっては知る由もなく、物心がついてから蝶々の医者、ピエロ、カトリーヌ・ ドヌーヴ、エトワール・バレリーナ、ドイツ語翻訳者、コメディ=フランセーズの団員になる ことを目指した彼女が、最終的にオペラ歌手になった要因は誰にもわからない。 デセイは23年のあいだ世界中でオペラの舞台に立ち、ヘンデルやモーツァルト、シュトラウ ス、オッフェンバック、ドニゼッティ、ベッリーニ、ヴェルディらに仕えた。ヴィクトワール・ド・ ラ・ミュジーク賞を6度受賞し、2008年にロンドンでローレンス・オリヴィエ賞を贈られた 後、2010年にフランス人歌手として初めてウィーン国立歌劇場で「宮廷歌手」の称号を与 えられる栄誉に浴した。 2013年、転向を決意し、オペラからの引退を表明。以後はピアニストのフィリップ・カサー ルとのデュオで、フランス歌曲やドイツ・リートなどを歌っている。また俳優として劇場の舞 台に立ち、「演じ」続けている。このような自由な活動は、強い信念と根気、そしておそらく何 よりも、インスピレーションや範となる存在を必要とする。デセイは2008年に、まさに自身 の範となりインスピレーションを授けてくれる人物、ミシェル・ルグランと出会った。彼に導 かれてシャンソンの世界に足を踏み入れたデセイは、より低く、より優しく、より内に秘めた「 もう一つの」声を自身の中に発見することになった。 2019年には、もう一人の多才な音楽家イヴァン・カサールとのコラボレーションで、アルバ ム『クロード・ヌガロに捧ぐ』をリリース。自身が敬愛するフランス人歌手の一人であるヌガ ロにオマージュを捧げた。 次シーズン以降も、舞台俳優として新たな演劇作品への出演を予定している。

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