LDV106
31 フィリップ·カサール 四手のためのソナタK.497が、大半のピアノ・デュオの主要レパートリーから外れている のは不思議です…… 私には理解しがたいことです。壮大で、感動的で、一音一音が宝石のような作品であり、モ ーツァルトの最高傑作20~30曲の一つであることは間違いありません。彼が手がけた他 のピアノ連弾作品は、どれもK.497のモチーフの豊かさと思想の深さに到達していません。 第1楽章はユニゾンで開始し、やがて転調を経て、ヘ長調からもっとも隔たった調性に至り ます。これは明らかにシューベルトの音楽の前触れです。第2楽章〈アンダンテ〉では、オペ ラ・ブッファ風の間奏曲が、《フィガロ》を彷彿させる“ソプラノ二重唱”ないし“ソプラノとメゾ ソプラノの二重唱”を遮ったり、フィオルディリージとドラベッラを予示したりします。そして 最後に順にフット・ライトが消えていく箇所は、照明のセンスが絶妙です……。このソナタ では、オーケストラ音楽の全てが鍵盤上で展開されます。弦楽器セクションがあり(第1楽 章の展開部には《フィガロ》の序曲がほぼそのまま現れます)、管楽器セクションがあり(第 2楽章での見事な3度音程の連なり……)、ティンパニやトランペットやホルンが不意に鳴 らされるのです。そして終楽章では、無邪気な見せかけの終結部がおとずれ、コーダが延 期され、カデンツが遮られ、大胆な和声が繰り広げられます。曲を締めくくるのは、登場人 物全員の大笑いです。このフィナーレは、モーツァルトがどれほど腕利きの“花火師”であっ たかを、私たちに思い起こさせてくれます。
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