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30 オペラ作曲家モーツァルト 本盤のタイトルに関連する質問です。演奏会用アリア《どうしてあなたを忘れられようか》 K.505は、オペラ・アリアなのでしょうか? 《イドメネオ》のウィーンでの再演のさいに差替え曲として新たに書かれたテノール・アリ アの歌詞を“再利用”して作られたのが、この演奏会用アリアです。モーツァルトの多くの演 奏会用アリアの特異性は、ほぼどこにでも――他の作曲家のオペラの中にさえ――挿入 されうる点にあります! ただしK.505は異例です。《フィガロ》や《コジ》でも用いられてい るフラット系のぬくもりのある調性で書かれていますし、何よりも、管弦楽パートにピアノ・ オブリガートが加えられている点と、ソプラノ歌手ナンシー・ストーラス[訳注]に献呈さ れている点が特殊なのです。彼女は、モーツァルトを虜にしました。献呈文は「für Mselle Storace und mich(ストーラス嬢と私に)」となっており、言わんとすることは明々白々で す。アリアの冒頭の歌詞が、それをさらに裏付けています。「何も恐れないで、愛しい人、私 の心はつねに貴方のもの」…… [訳注]《フィガロの結婚》初演で主役スザンナを演じた歌手。 今回のプログラムに幻想曲K.475を含めた意図についてお話しください。 本アルバムのタイトルを丸々体現する1曲と言っても過言ではないでしょう。暗闇の中で幕 が上がり、荘重で厳粛な雰囲気が弦楽器群の合奏を思い起こさせます。大胆な一連の転 調は、四手のためのピアノ・ソナタK.497を予示しています。そしてまたK.475の変化に富 んだ構造は、規模は全く違えど、私の目には明らかにオペラの縮図として映ります。メゾの アリア、管弦楽によるセッコ風の間奏、ソプラノのアリア、ヴォカリーズを伴うカデンツァ、ソ プラノとメゾの二重唱、舞台背景転換中の管弦楽によるトゥッティ、管弦楽付きのレチタテ ィーヴォ……。おまけに、導入部の種々のモティーフが回帰する終盤は、《ドン・ジョヴァン ニ》で騎士長の石像が序曲の主題を歌うシーンをやや彷彿させます。

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