LDV106
29 フィリップ·カサール 今回、協奏曲K.482の緩徐楽章で活発なテンポを採用なさっていますが、その理由は? ベートーヴェンのロマンティックなアダージョ楽章ではなく、葬送行進曲でもなく、他なら ぬモーツァルトのアンダンテ楽章だからです。しかも(四分音符を1拍とする)4分の3拍子 ではなく、(八分音符を1拍とする)8分の3拍子で書かれた古典派の様式による変奏曲で す。20世紀には長い間、モーツァルトの緩徐楽章を著しく遅く演奏する習慣がありました。 中には、例えば協奏曲ニ短調K.466の場合のように、アッラ・ブレーヴェの記号を取り払っ てしまった出版譜さえありました。そんなことをしたら、どうなるでしょうか?……どれほど 美しいサウンドで演奏しようとも、モーツァルトが“劇”を意図した音楽に――このアンダン テ楽章のように変化や動きのある音楽に――、余計な“お涙頂戴”や過度な感情や厚い響 きが、どうしても加わってしまいます。オーケストラが驚くほど半音階的に曲がりくねる序 奏を聞かせた後、ピアノが弾き始める瞬間は、後にドンナ・アンナが歌うことになる旋律とよ く似ています! そこに何かを余分に付け足す必要はありません。装飾音とアクセントとシン コペーションに多分に彩られたピアノ書法が、苦悩し、狼狽し、悲嘆に沈む 人物を既に十分に表現しているのですから。
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