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それだけにいっそう、かなり後に発見された《燃えさかる炭が照らす夕 べ》(1917)は、ひとびとに衝撃を与えました。この曲は、炭屋への返礼 として作曲されたものです。曲名は、ドビュッシーが1887年に歌曲とし て音楽化したボードレールの詩「バルコニー」の一節にちなんでいま す。さらにドビュッシーは、ボードレールから霊感を得た自作の前奏曲 から、音楽的な引用もおこなっています。それゆえにこの最後のピアノ 作品は、やや皮肉を交えた、穏やかでノスタルジックなまなざしを、象 徴主義が示唆する過ぎ去った幸福な時代に注いでいるように感じられ ます。ドビュッシーがこの世に告げた真の“別れの言葉”は、官能的な ハーモニーに浸り、魅惑的で柔らかな光をまとっています。
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