LDV84
40 ドビュッシー / 12の練習曲 ∙ 聖セバスティアンの殉教 今回の録音プログラムに含まれている《エレジー》(1915)は、内省的で、物悲 しさと諦念に満ちています。これは《練習曲集》と同時期に書かれた作品です ね。そして《燃えさかる炭が照らす夕べ》(1917)――曲名はボードレールの詩( 「バルコニー」)の一節にちなんでいます――は、ドビュッシーの音世界と彼の 全作品に別れを告げるかのように響きます。そのうえ、〈音と香りは夕暮れの大 気に漂う〉の一部が引用されてもいます。まるで最後にもう一度、《前奏曲集》の 象徴主義的な世界と繋がろうとしているかのようです。貴方自身は、ドビュッシ ーが最晩年に手がけた2作品と、彼のこの世への惜別の情を、どのように捉え ていますか? 彼は1915年の夏に、人生最後の旺盛な創作活動を展開しました。生のエネルギーがしば しのあいだ蘇った後、彼は、大戦勃発時にはじまった精神衰弱に再び悩まされます。それ は、彼の身体をむしばむ病によっていっそう深刻化しました。《エレジー》を作曲した12月に は、大手術を受けています。この暗く、ごく短い楽曲からは、彼の絶望感がにじみ出ていま す。曖昧な和声の下で響く、どこまでも悲しみに打ちひしがれた左手の旋律は、ドビュッシ ーが書いたもっとも悲痛な旋律のひとつでしょう。そして長年、この作品こそが、彼がピアノ 音楽に告げた最後の“別れの言葉”であると信じられていました。
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