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フィリップ・ビアンコーニ 39 なぜアンドレ·カプレの編曲による《聖セバスティアンの殉教》を録音したので すか?このややワーグナー的な音楽を通して、ドビュッシーのもうひとつのイメ ージ、つまりは神秘的で審美的なイメージを提示するためでしょうか?ドビュッ シー自身は、この作品が“典礼音楽の再生”をになうと考えていました…… すでにドビュッシーの最重要作を録音した私には、《練習曲集》と初期の楽曲の組み合わ せは想像できませんでした。その若干“古びた”作曲語法が、現代性を誇る傑作《練習曲 集》の横に並ぶことで、惨めな状況に追いやられてしまうはずです。今回の録音プログラム を完成させるにあたり、《殉教》の編曲版を検討したのは、より年代的に《練習曲集》に近い 後期作品、しかし《練習曲集》とは全く異なる斬新な美学を提示している作品を加えたいと 考えたからです。ドビュッシーが宗教的な題材に情熱を傾けたことには驚かされますが、 その感情は、深く真摯なものだったようです。彼の霊感は突如として、思いもよらない神秘 的な次元と結ばれました。ドビュッシーは、ワーグナーの音楽への“攻撃”を激化させる中 でさえ、《パルジファル》には賛嘆の念を抱いていました。おそらくドビュッシーの《パルジフ ァル》への憧れは、それまで未開拓だった領域に自分も足を踏み入れてみたいと彼が望 んだ経緯と無関係ではありません。この突然の願望が、作曲依頼によって刺激されたので す。ドビュッシーは《殉教》のために、自身のもっとも高尚な楽曲の幾つかを書き上げまし た。そのうちの数曲を、カプレが編曲しました。峻厳で息をのむほど美しい〈前奏曲、百合 の庭〉は、三和音の平行進行ゆえに、ほぼ同時期に書かれた〈カノープ〉[《前奏曲集》第2 巻第10曲]とよく似ています。魅惑的な音色と和声が特徴的な〈魔法の部屋〉は、無類の暗 示力を具えています。そして〈受難〉は、ドビュッシーのもっとも悲劇的な楽曲のひとつに数 えられます。その苦悩に満ちた暗い半音階書法は、とりわけピアノ編曲版で際立たせられ ており、晩年のリストを彷彿させます。

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