LDV84
フィリップ・ビアンコーニ 35 ドビュッシーは《練習曲集》において、喚起力のある曲名と袂を分かち、これ以上ないほど に抽象的な形式を採用しています。本来、“練習曲”と題された音楽は、技術的·教育的な 意図なしには存在意義をもちえません。しかし彼は、意図を徹底して抽象化することによっ て、最大の自由を手にすることができました。しかもそれはいかなる場合にも、音楽の内容 に知的な抽象性をもたらしてはいません。もっとも、《練習曲集》全曲を一様に語ることは到 底できません。12曲には、驚くほど多様な性格や曲調が与えられており、そこには確かに 官能性もみとめられます。〈8本の指のための〉の一本調子な抽象性の前には、〈オクター ヴのための〉が、ほとばしる歓喜と目まぐるしいワルツを聞かせます。無愛想で辛辣な〈反復 音のための〉に答えるのは、種々の音色を見事に重ね合わせる〈対照的な響きのための〉 と、官能的な〈組み合わされたアルペッジョのための〉です。ひとつの練習曲の中でさえ、異 なる要素が混在しています。たとえば、断続的な音楽形式の驚くべき実例である〈装飾音 のための〉では、曲調が絶えまなく急変し、きわめて複雑なリズムと、暗澹とした瞬間と、官 能的なハーモニーの広がりが交替します。
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