LDV201

アンドレ・イゾワール 29 トッカータ、アダージョとフーガ ハ長調 BWV564 《トッカータとフーガ ニ短調》と同様、バッハの若かりし時代の作品である。ワイマ ールでオルガニストとして活動したバッハは、当時この地で、オルガンのために 膨大な数の作品を手がけた。 「トッカータは、長さの異なる 2 つの大きなセクションから構成されている。レチタ ティーヴォ風の前半は意外性に富んでおり、イマジネーションと手指の超絶技 巧が拮抗する。後半はペダルによって、バッハの作品群中もっとも長くもっとも 個性的な、息の長い旋律が紡がれる。 19 小節にわたり、複数の動機が反響し合 い、 32 分音符のグルペット(回音)やトリル―― 16 分音符による 3 連符が増殖して いく――の装飾をほどこされていく。これと全く対照的な「アダージョ」では、数小 節のあいだ、バッハが書いたもっとも美しい旋律の一つが歌われる。 4 声の厳格 なポリフォニーにおいて、この旋律がソプラノ声部に託される一方で、バス声部 は弦楽アンサンブルのピッツィカートのごとく、実に規則正しく“句読点”を打つ。 「フーガ」の主題は、問いと答えの関係のように、「トッカータ」の冒頭を想起させ る。しかし展開部では、バッハが生来の激烈さを、念入りに築かれた形式に従わ せることで制御していく過程が示されている――バッハは主題を引き立たせるた めに、これとは正反対の性格のうねるような対主題を用いている。曲は次第に華 麗さを増していき、トッカータ風のフィナーレで幕を閉じる。

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