LDV201
28 バッハ_ トッカータとフーガ 幻想曲とフーガト短調 BWV542/トリオ ニ短調 BWV 583 バッハの才能と熟達は、オルガン音楽の傑作とされる BWV542 において、極めて 明白に発揮されている。活気に満ちた想像力が、厳格な構造と見事に手を結ん でいるのだ。この作品は、 1720 年、バッハが最初の妻の死の直後にハンブルク を旅した折に作曲されたという説がある。「幻想曲」では、ドラマティックな嘆きの 波と、理性が制御しようとする悲痛な想いが、あまりに強烈に際立たせられるため に、バッハの辛い苦難を想起せずにはいられない。 崇高な幻想曲は、劇的で壮大なレチタティーヴォによって開始される。即興的 な性格を多分に帯びたレチタティーヴォが、鍵盤のほぼすべての音域を突風の ごとく駆け巡る。これに応えるのが、平穏で対位法的なエピソードだ。勝利の「フ ーガ」が、この悲壮で壮大な幻想曲に対置される。美しい主題――北ヨーロッパ の民謡を変容させたもの――が、短調でありながらも、絶望に対する前向きなエ ネルギーの勝利を示す。強烈で一様なダイナミズムが、そのアラベスクに力強さ を、曲線に厳格さを、音楽の流れに支柱を添えている。 6 つのセクションにわたっ て、フーガは終結に向かって突進していく。この世の人生の浮沈に対峙するバッ ハの、高潔な肯定を強調しながら。
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