LDV18

36 アントニン・ドヴォルザーク_ 弦楽四重奏曲 第 10 ・ 11 番 ヤン・ターリヒが弦楽四重奏団を創設したのは1964年のこと である。その活動は4年後に起きたチェコ民主化運動「プラハ の春」によって活気を帯びたのち、ソビエト軍の軍事介入によっ て阻まれることになる。これに続く重苦しい数年の間、丹念に 抵抗の姿勢を育んだターリヒ弦楽四重奏団は、その活動史上、 最も創意に富んだ伝統の一つを築きあげるに至った。4人がパ リで初めて演奏を行ったのは、情勢が軟化した1975年。その 深遠なハーモニーと歌心に、聴衆の心は大きく揺さぶられた。 その1年後、彼らはアントニン・ドヴォルザークの弦楽四重奏曲 「アメリカ」作品96の録音を発表。これは伝説的な演奏として 後世に伝えられることになる・・・ 以来、私は録音と公演を通して、ターリヒ弦楽四重奏団の演奏 に絶えず耳を傾けてきた。その間にメンバーが交代していった が、それでも彼ら特有のサウンド、独特な響き、そして何よりあの ポエジーが、私の関心の的であり続けた。その演奏の最たる特 徴は、“Amoroso”(伊:情愛を込めて)としか形容できないあの 奏法、繊細で柔和な抒情性――とはいえサウンドは充実してい る――、聴き手の心を奪う情感ゆたかな物腰だろう。

RkJQdWJsaXNoZXIy OTAwOTQx