LDV153.7

138 ヨハン・セバスティアン・バッハ _ オルガン作品集 巨匠イゾワールの、公演前の集中方法は個性的だった。[リハーサルで] 弾き込み、肉 体を疲労させることなど一切ないのだ!彼は演奏場所の近くに河や池がないか、調べ る。そして、車の中に常備している釣り糸と針を手にして出かけ、鯉をじらしながら、波 うつ水面を見つめ、精神を集中させてリサイタルに備えていた。 彼は弟子たちに、一作品に対して複数のアプローチを提示してくれた。例を挙げるな らば、時に彼はある曲を猛スピードで弾いた。そして同じ曲を次に弾く時には、正反対 のテンポを選んで、こう強調した。「こういう解釈も可能です。これはこれで、根拠があり ます。」そして生徒が、言われた通りに丹念に練習を重ね、次のレッスンでそれを演奏 してみせると、イゾワールは声高にこう述べるのだった。「それはいけませんね。先生の 解釈そのものではないですか!私が提案したものを出発点に、君独自のアイデアを創 り上げなければいけませんよ・・・」

RkJQdWJsaXNoZXIy OTAwOTQx