LDV153.7

131 アンドレ・イゾワール バッハの作品を初めて録音した時、アンドレ・イゾワールには“全曲”録音に取り組もう という気持ちは微塵もなかった。 CD 制作者がジャケットに “Vol.1” と記載したので「罠に ひっかかったのだよ」と、イゾワールは冗談交じりに振り返る。そう、幸運な罠だった ! イ ゾワールは自らの平静なペースを維持して、この冒険と向き合っていった。発端は 1975 年に遡る。アウリッヒ、フランクフルト、エシュ=シュル=アルゼットで録音された見事な 「前奏曲とフーガ」「トリオ・ソナタ」「オルガン小曲集」が、素晴らしい録音技術にも支え られ、極めて高い評価を得た。その後の経緯は周知の通りである・・・数々の録音がこ れに続き、全曲録音の軌跡が自然に描かれていった。この全曲録音が「フーガの技 法」をもって完結したのが、 1999 年である。 当初の録音技師は、ジョルジュ・キッセルホフ。 1988 年以降、つまり全曲録音の第 2 期 に当たる時代に、イーゴル・キルクウッドが録音技師を任され、イゾワール自身も音響 美学的な側面を監修した。イゾワールはこれを機に、自ら芸術監督も担うようになり、自 由を得た録音活動は、より独自な、新しい段階へと至ることになった。この第 2 期に、彼 は 「 4 つのトッカータ」ならびに「幻想曲とフーガ ト短調」の再録音を決意している。大 家イゾワールは自身の絶頂期に、全曲録音活動の最も充実した時期のひとつを過ご したといえる。この新録音は編集の都合上、今日までボックス CD には収録されてこな かった。今回の一連の 15 枚のディスクに、ようやくこの新録音が含まれることになった次 第である。

RkJQdWJsaXNoZXIy OTAwOTQx